yasutokuのブログ

自伝・自分史の制作。原稿拝見およびご指導。取材し執筆。

癒しの山 大台ヶ原 開山行者の生涯 ロングセラー人気本の試読

 

本の説明

 日本百名山大台ヶ原を知る人は多い。素晴らしい大自然の宝庫である。しかし、この山の萌芽期については誰がどのような経緯で開山したのかについて殆ど世間に知られていない。理由は確かな資料が発見できなかったのだ。
 この本は、大台に傾倒した著者が長年の資料探索によって得た大変貴重な幻の資料を入手、二年の歳月を費やし完成出版したものである。山愛好家はもとより、一般人も教養として一読しておく価値があります。現に地元近郊の小・中学校では副読本として読まれております。今後二度と世にでることがない貴重本といえます。世に大台の本が多々存在するが、この本は単なる山ガイドではない。
 注目は、若い開山行者が修行中、二頭の日本オオカミと心を通じ合うところが面白い。
 第一部は行者の生涯を貴重な資料をもとに綴ったものです。
 第二部は著者の登山日誌や遭難、日本オオカミ物語が盛り沢山で、大変興味深い読物となっている。

【試読】
【平成二十七年 改訂版電子書籍】    

山の辺書房かしはら出版編集室 刊


癒しの山
 大台ヶ原
       開山行者の生涯
                          杉 岡  昇

【第一部】 

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大台ヶ原は九八メートルの高台でありながら、頂上近くまで車で行くことができ、老
若男女誰でも登ることができる山だ。
 それゆえ、現駐車場付近は他の観光地と同様、およそ、深山の趣(おもむき)などい。
 だが、一歩登山道に足を踏み入れるとまわりの景色が一変する。歩をすすめるにつれ、野鳥のさえずりが耳に心地よく響く。その歌声に導かれ次第に幽玄(ゆうげん)の別世界に身をおくことになる。
 澄み切った清水が軽やかなリズムを奏でる小川。その流れに沿って季節ごとに「バイケイソウやカワチブシ」など、珍しい植物が出迎えてくれる。運が良ければ、ブナの大木やトウヒの梢(こずえ)から地上目がけて、大きなネズミ色のリスが、おどけるような仕草(しぐさ)で飛び降りてくるのに出くわすことがある。このリスは、本来この山に棲息(せいそく)していたのではなく、外からやってきて繁殖(はんしょく)したもののようで、全長が約五〇センチもある大型だ。
 また、原生林を抜けて開けた場所に出ると、笹を食(は)む鹿の群に出会うこともある。
 露出した木の根、風雨にさらされた石ころだらけの登山道を進むと、灌木(かんぼく)の先に突然視界が開け、有名な「大蛇嵓(だいじゃぐら)」の上に立つ。此処からの眺めは超一流で、眼下を流れる東の川にせり出した断崖絶壁は八〇〇メートルあり、足が竦(すく)む。
 初夏には「シャクナゲ」の群落が、秋には紅葉の海が、登山者の心を癒してくれる。
 更に絶景は、大台ヶ原最高峰「日出ヶ岳(ひでがたけ)」からの眺望だ。東に熊野灘、西には世界遺産大峰山脈が一望できる。それはまさに、「日本百名山」の貫録だ。
 これらは、神が、我々人類のために創
造した[天空の大自然庭園]といえよう。
                                                     著者

 

はじめに
 大台ヶ原について出版を決意したのには理由(わけ)があった。それは、歳月を重ねるにつれ大台の開山伝について或は諸伝説が忘れ去られると危惧(きぐ)したからである。
大台ヶ原へ行ってきたよ、素晴らしい処だった」
 誰もが口をそろえて幽玄な自然美を称賛する。だが、この大衆化された大台が、ほんの百年前は一般人はもとより、修験道者さえ入山を避けたほどの、ある意味魔境に近い処であったことは殆ど知られていない。        
 この、魔物が棲む山が誰によって開山され、現在の姿になったのか……。第一部では、このことについて述べてみたいと思う。
 明治中期、魔の山として恐れられ、人を寄せ付けなかった大台ヶ原に一人の若き行者が入山した。彼は、壮絶なる修行を敢行、ついに[大台ヶ原開山]の偉業を成就した。
 私は、このことについて少しは聞き及んでいた。しかし、その詳細な資料は
皆無に等しかった。なにしろ、この行者については知る人ぞ知る伝説的存在となっていたからである。だが、大台ヶ原の萌芽期を語るうえで、欠くことの出来ない史実を何とかして入手したいという思いから、八方手を尽くして探索に奔走した。そんな折、幸運にも一冊の本の存在を知った。「大台ヶ原開山記(古川嵩伝記)郷土史家、鈴木林著」だ。出版は約三十年前で、既に絶版になっていたが一冊だけ入手することができた。開山行者の生立ちから綴ったもので実に[幻の資料]というべき貴重なものだ。
 早速著者ご自宅に駈けつけ、お会いすることができた。鈴木先生は九十歳近くであったがお元気で筆者を温かく迎えてくれた。
 そこで、私の悲願、失われつつある大台ヶ原の歴史を後世に残したいという趣旨を説明し、先生のお書きになった「開山記」を資料として使わせて頂きたい旨を懇願した。
 一度世に出た本を復刻版として出版するのならとも角、資料として使わせて欲しいという申し出は、あまりにも厚かましいことではあった。言下に断られるかも知れない、という私の心配をよそに、
「使ってくれて構いませんよ」と、上機嫌な先生の言葉をいただいた。更に、著作権云々は関係ありませんよ、という先生の一言。この時の私の感極まった心中は読者の皆様の想像にお任せする。
 従って、[本書第一章]は、郷土史家、鈴木林先生によって成就したといっても過言ではない。先生のお調べになった克明な、現在では実にまぼろしの資料というべきものは、殆どの人が知らないことが網羅されていて貴重極まりないものであった。
 本書第一章は、この貴重な資料が基となっていることを改めて読者諸氏にお伝えしておきます。

 また、後日発売予定の、続編第二章は、伝説や、今は絶滅したといわれる日本オオカミについてその関係者や、私自身の実体験を基に書かせていただきました。
 大台教会、並びに併設された登山者宿泊所の総責任者であった田垣内政一様との出会い、その活動記録であります。この概要については第二章で記述させていただくとして、とりあえず、本書の根幹部分がこのような事情で完結できたことは、鈴木先生の破格のお計らいによるものであることをご承知願いたい。
                                                                                  筆者
                        
    試読もくじ

第一部

  プロローグ 梅雨の一夜     一二
  古川嵩大台ヶ原開山行者の生涯  一六
  厄年の児                              一六
  商人の道へ                                       二一
  大台ヶ原開山への旅立ち                  二五
  信頼                                                  三〇
  池峰明神参籠                                    三二
  大台ヶ原入山                                    三八
  単独行動                                           五二
  再開と、しばしの別れ                     五九
  教会設立活動                                   六五
  越冬の修行                                       六七
  教会建設                                          七三
  気象観測                                          七六
  有線電話架設                                   七九
  神武天皇銅像建立                            八三
  自然崇拝と自然破壊                        八九
  旅立ち                                             九二

第一部

プロローグ
梅雨の一夜
 六月、雨季に入った大台ヶ原山中の夕暮れどき。
 山の斜面に栃(とち)の巨木が根っこから倒れている。おそらく台風などでひっくり返ったのだろう。見ると、根っこのあたりに大きな空洞ができている。かなりの広さだ。
 先刻(さっき)まで降っていた雨が止み、濡落葉(ぬれおちば)が一面にしきつめられているが、倒木が作った穴の中は雨も入らず乾いていた。
 周囲一面に霧が立ち込めはじめた。空気が止まっているような静寂が、これから訪れる原生林の闇を連想させる。
 音もなく、風もない。空には、べったりと雨雲がはりついている。

 その黒い雲が一瞬白く光った。と同時に雷鳴が静寂を破った。その時、斜面を二頭の日本オオカミが駆け下りてきて、ためらうことなく、栃の倒木の穴に飛び込んでいった。オオカミは、この密林大台ヶ原の主なのだ。倒木の穴は彼らの住居なのだろう。
 雷鳴が二度、三度響いて大粒の雨が落ち始めた。大台の梅雨は男性的で、降り始めたらまるで南方のスコールそのものだ。一旦降り止んでは又降る。この繰り返しなのだ。
 その雨のなかを、今オオカミが駆け下りてきた方角から、今度は白装束の青年が一人、斜面をずり落ちるように現れた。それは、目を疑う光景だった。人々から魔物の棲(す)む山として恐れられ決して人間など居るはずのない深山だ。だが、実際に青年の姿がそこに認められた。彼は、先刻二頭のオオカミが入って行った穴の前に立ち、ちょっと中を覗くような仕草をして中に入って行った。
 穴の中には先客の狂暴なオオカミが居る。そこに、こともあろうに人間が飛び込んでいけば、瞬時に咽を噛み砕かれるのがおちだ。
 何かが起こる。悲鳴とかオオカミの狂い猛った声が……。

 雨の勢いが弱くなり、木々の葉を打つ雨粒の音が小さくなった。穴の中は静かなままだ。何かが起こっている気配はまるでない。もしかして、オオカミと青年は既に和解済みなのか? 仮に、次のように想像をめぐらしてみよう。
 オオカミは夫婦だと仮定する。
 オオカミの夫「おい、お兄さんよ、ここは俺らのもんや」
 オオカミの妻「そうよ、何よ、いきなり飛び込んできて…出ていってよ」
 白装束の青年「いや、それは済まん。でもなあ、外は雨だ、何とか一緒に泊めてくれんか」
 こんなやりとりがあったかどうかは不明だが、「ウー」というオオカミの低い唸り声と交互して青年の諭すような声が聞こえたことだけは事実だった。
 やがて一時の雨も止み、再びの静寂。そしてとっぷり
暮れた闇が原生林を支配した。

 梅雨の夜の一シーンである。
 この白装束の青年は、その後どうなったのか?
 この時点では、彼こそが艱難辛苦(かんなんしんく)を克服し、見事大台
ヶ原開山を果たし、大台教会を設立した古川嵩(かさむ)行者そ
の人であることなど、オオカミはもとより誰もが想像す
らしなかった。

          …………………………………                 
【第二部・予告】

田垣内政一さんとの出会い・政一さんの遭難話・オオカミ夜話
牛石伝説・笹馬伝説・一本足伝説・女学生の登山・
大台ケ原の自然(イラスト付)
筆者の登山日誌・心の山、過去、現在、未来
著者あとがき


 癒しの山
    大台ヶ原
      開山行者の生涯(第一部)
二〇一一年一月  初版発行
二〇一一年三月  第二刷発行
二〇一二年一二月 第三刷発行    電子書籍価格七五〇円
著者 杉岡昇
発行者 向井靖徳
発行所 山の辺書房かしはら出版編集室
        奈良県橿原市畝傍町四一ー一〇
        電話・電紙 〇七四四ー四一ー六四七三
        http://web1.kcn.jp/y-pub
        email fumito-buck@kcn.jp
       
二〇一四年九月 電子書籍として出版
 ○C Noborw Sugioko 2014  Printed in Japan   内容全て無断転載禁止します。

癒しの山 大台ヶ原 開山行者の生涯 改訂版 第一部: kaizangyojernoshiyogai kaiteiban dai1shiyo (偉人伝)